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クレヨンしんちゃん 大人帝国の逆襲を見た感想

小学生の時に見たクレヨンしんちゃん 大人帝国の逆襲を最近また視聴したので、その感想を書いていきます。

 

まず作品の大きなテーマとなっているのは『大人と子供』ですね。これは『過去と未来』と言い換えてもいいと思います。

 

この映画はまず、ひろしが子供の頃に好きだった特撮の主人公になりきる撮影を、20世紀博の施設で行うシーンから始まります。

そして20世紀博にはまる大人が大勢いるという描写が入り、翌日になり、大人的な行動をしない大人や、その大人たちを20世紀博側の人間たちが回収に来るという流れになります。

 

この流れの中で、精神が子供化する大人=起きてから好きなものを食べてゴロゴロする、あるいは昔の遊びをする大人が描かれています。

この辺りで印象的だったのが、遊んでいる園長先生や他の先生の間にしんのすけが入ろうとした際に、先生たちが強くこれを拒んだことです。

これは子供=未来を、過去=自分たちの知っている世界でしか生きたくない大人が拒んだ、つまり、大人が現在以降を拒み、過去を生きたがっているという暗喩のある描写に感じました。

 

子供たちが自分たちで食料を探したりするシーンは、シリアスシーンの過多を避けるための構成だと思うので、そこの感想は書かないでおきます。

 

次に印象的なシーンとして、子供たちがバスで逃げる描写がでてきます。これはアニメならではのシチュエーションであり、かつコミカルな演出だったので単純に楽しめるシーンでした。

このシーンのメッセージとしては、子供たちがそれぞれ自らハンドルを握るということ、大人が仮にいなくても自分たちだけでも進んでいこうとする、まだ弱いながらも力強い精神を描く意図があったのかもなあと思いました。

先の食料集めのシーンもそうでしたが、しんのすけ達は大人がいなくても自発的に行動を起こしています。ここに、未来に向かう子供の姿というメッセージみたいなものがあったように思います。

 

次はしんのすけがひろしに靴の匂いを嗅がせ、大人の心に戻すシーンです。

その際に流れるひろしの回想のシーンが泣けるんですよ。内容としては、子供だったひろしが学生時代を経て、社会人をやりながら、子供も生まれて家族が増えたり、帰宅して家族とじゃれついたり、他にもみんなで出かけるというシーンが流れるのですが、この回想シーンの大事なポイントは、苦労した思い出と幸せな思い出のふたつが入っているという点だと思うんですよ。

会社で残業して苦労したけど、帰ったら家族が温かく迎え入れてくれて幸せな気分になった、みたいな。

家族ができて、ひろしはその家族を養うために当然苦労がある。だけど、その苦労なんて忘れてしまうくらいに家族といられることが幸せで、だからこそひろしは21世紀を生きるという選択をしたんでしょう。

この場面では、20世紀を生きる(子供の精神のまま懐古心に浸って生きる)=変わらぬ平穏な日々を生きる。21世紀を生きる(大人の精神として現実を生きる)=変化や浮き沈みもあるけれど、その中に身を投じ、幸福を自分の手でつかんでいく。ということなんだと思います。

 

後はやはり東京タワーのシーンですね。テーマに沿ったようなシーンで好きなところは、エレベーターに乗っているケンに対してひろしが、「俺の人生はつまらなくなんてない。家族のいる幸せをあんたたちにも分けてあげたいくらいだぜ」と言い放つところです。

これは言葉の意味そのままのひろしの心情であり、同時に、過去の世界に捕らわれたまま未来に進まない(家族なんてできない)ケンとチャコに対する皮肉のようなものにも聞こえます。前に進めず、昔からあるものだけで満足する二人をかわいそうに思っていると感じるようなセリフでもありますね。

 

それと最後に、しんのすけの激走からのしがみつきのシーン。未来であり希望である子供のしんのすけがあれだけ必死に走って、前(21世紀)に進もうとする姿が、人々の心を打ち、20世紀への執着を薄れさせ、人々に前に進む勇気を与えたという形。「5歳児のしんのすけがあれだけがんばって前に進もうとしてるのに、自分はいつまでも安寧な場所にしがみついて、前を見ずにいていいのか?」そんな気持ちを見た人に呼び起させるような激走と執念でした。

また最上階でケンたちに向かってしんのすけの言った、ケンカしたりしても家族と一緒がいいというようなセリフは、先のひろしの回想のような、多少つらいことがあっても、より大きな幸せがあればそれでいいというような考え方で、過去の楽しい記憶に固執せず、前に進んで新しくいい思い出をつくろうというメッセージは、ケンとチャコだけでなく、視聴者に伝えたいことだったんだろうなあと思いました

 

経済の停滞に対するメッセージとして

この映画は2001年に公開されて、世紀の移り変わり直後のタイミングで公開されているわけですが、世紀の移り変わりに合わせてこういうテーマの作品をつくったというのは意味のあることだと思います。

というのは日本では1990年代前半にバブル崩壊が起こり、この映画が公開された頃は日本経済の停滞や、それによるバブル期への懐古心を募らせる人が多かった頃かと思いますが、そういった人々に対して、未来に向かう野原一家の姿を見せることで、前を向く希望を与えるようなこの映画は、やりたいことがはっきりとしていて、またその伝え方も明瞭なもので、なおかつ子供でも楽しめるコメディ感もふんだんにあるという、ファミリー映画としては最高のものだと思います。